逡巡録

主に転写録。数秒の躊躇いの中に機械は世界を射影する。

詩編

遠くから靴の音が聞こえる置き時計の針が回る 扉が開く扉が閉まる 扇風機が首を振るプロペラが軋んで回る 扉が開いている扉が揺れている ラジオのトークが流れる顔のない笑い声が聞こえる 蝉が死んでいる

団扇

扇げば尊し夏の風ひそひそ話が海に聞こえる 風の噂はスキャンダル君が履くのは赤いサンダル 死ぬまで踊る口の中プールの中は白地図さ 洒落た模様は風景写真君が扇げば僕も扇ぐ 氷のグラスに台風を呼ぼうぜ仰げばうとうと夏の夢

かくれんぼ

風鈴が鳴る足音が消える足跡が消える足だけが消える 風鈴が鳴る早きこと風の如く静かなること林の如く透き通ること鈴の音の如く 風鈴が鳴る扉が開いている窓が開いている瞳が開いている 鬼のいないかくれんぼ

湖とアトリエ

骨、それは山頂で高らかに歌う骨、それは黄金の川を渡る骨、それは灰のマットから落ちる骨、あるいは透き通った睡蓮の格式

みずたまり

霧雨の木立にさらさらと社殿の軒下に門の下 ひと振りの洗剤に陰りを込める ひと組みの靴下にスーツを編む ひとりの鉄道に影を振り返る どこまでも流されてゆけ

夏色

空を見ながら考える 夕暮れであるそうだ そうだった あの唐紅に染まった壮大さはどのように演じ育ったのだろうか ユークリッド空間のミドリムシはどのコーラの缶を捕食しているのか 誰も砂場の遊具に気づいていないだから氷が溶けても晴天をくれなくなった …